令和5年(2023年) 5月 №1092
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紫波町魅力再発見 vol.12
3世紀にわたる水争いを治めたダム
地域農業発展の礎であり続ける
お話を伺ったのは…
山王海土地改良区
理事長 大沼義広さん
親子ダムの特徴を持つ、
日本最大級の農業用ダム
 志和稲荷神社を過ぎ、上り坂の先にあるトンネルを抜けると、山王海ダムが目に飛び込んできます。山王海ダムの運営管理を担う山王海土地改良区の理事長大沼義広さんは、「農業用水の確保を主な目的とするダムとしては国内で最大級の規模です」と胸を張ります。旧山王海ダムは昭和27年に完成し、平成13年の嵩上げ工事を経て総貯水量は3840万トンに。紫波町や矢巾町、花巻市など、3799ヘクタールにわたる地域に水を供給しています。
 山王海ダムは、近隣の葛丸ダムと連動する「親子ダム」という特徴を持っている、全国的にも珍しいダムです。紫波町の山王海ダムと花巻市の葛丸ダムを2本のトンネルで結び、それぞれの高低差を利用して水をやり取りしています。葛丸ダムの総貯水量は500万トンと比較的規模が小さく、必要な水を貯めるには限界があるため、冬場に山王海ダムにトンネルを使って水を送り、夏場に別のトンネルで適切な量の水を葛丸ダムへ戻す仕組みとなっています。この連携により、地域の農業水利条件は大きく向上しました。
長い水争いの歴史に終止符
山王海ダムの堤体に掲げられている
 「平安 山王海 2001」の植栽文字には永遠に水争いのない平穏を祈る思いが込められています。山王海ダムと葛丸ダムの連携により、地域の水が適切に管理されている現在では考えられないことですが、長い間、水をめぐる争いが続いていたそうです。山王海ダムの水源は、県の一級河川に指定されている滝名川です。
滝名川の水量は、広大な農地に対して十分ではなかったため、水不足が頻発。
水を有効に利用するべく、江戸時代には27個もの堰が存在していましたが、雨が降らない干ばつの年には特に大きな水争いが起こっていたといいます。寛永3年(1626年)から山王海ダムが完成するまで、記録に残っているだけでも36回の争いがあり、時には死者が出ることも。近隣の志和稲荷神社の稲荷さんの耳が欠けているのは、水をめぐる対立が関係しているとの言い伝えも残されています。こうした悲しい争いも山王海ダムができることで解消されました。
隠れた見どころ
 「農業用水を地域にくまなく供給し、食用米のほか野菜・麦・大豆・畜産飼料米などを組み合わせた地域農業が発展するよう、努力していきたい」と意気込む大沼さん。令和6年度に向けて水力発電の導入も検討が進むなど、今後の展開に期待が高まります。
 例年5月の後半には、ダムに向かう途中の展望地から見ることができる、隠れた名スポットが現れます。堤体文字「平安 山王海 2001」の形に植栽されている「つつじ」の開花です。「平安」と「2001」の文字には赤色の「紅霧島つつじ」が、「山王海」の文字には白色の「琉球つつじ」が植えられています。2種類のつつじの満開が重なる時期は大変短く、山王海ダムに頻繁に通う職員でも見ごろを計るのは難しいとのこと。この機会に皆さんも足を運び、鮮やかな紅白のつつじの競演を楽しんでみてはいかがですか。
ぜひ足をお運びください!
山王海ダム
例年5月の後半につつじが見ごろを迎えます。
場所 土舘(志和稲荷神社から車で5分)
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